ASPインタビューレポート 〜バリューコマース株式会社〜
ポイントサイト事業者が存立する上で欠くべからざる存在なのが、アフィリエイト広告を配信しているASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)です。
2017年6月にお届けした前回レポートに続き、今回は国内最古にして最大規模のASP「バリューコマース株式会社」を訪問。アフィリエイト本部 コンサルティング2 部長の角田 悠さんに、アフィリエイト広告のトレンドや今後の見通しなどについて話を聞きました。
【会社概要】
バリューコマース株式会社
設立:1996年
代表者:香川 仁
資本金:17億2826万円(2016年12月31日現在)
従業員数:258人(2016年12月31日現在、連結ベース、臨時雇用を含む)
上場市場:東京証券取引所市場第一部
事業内容:広告事業(アフィリエイトマーケティング、ストアマッチ、アドネットワーク)
CRM事業(マーケティングオートメーション)
【角田 悠さん プロフィール】
バリューコマース株式会社
アフィリエイト本部
コンサルティング2部長
角田 悠さん
――御社は1996年にトランズパシフィック有限会社として創業されていますが、沿革を拝見すると現在の社名「バリューコマース株式会社」に商号変更された1999年に、他に先駆けてアフィリエイトプログラムをスタートさせているんですね。
角田 アフィリエイトマーケティングのプログラムを日本で初めて導入したのが、弊社だと言われています。
――その後、2005年にYahoo!グループの傘下に入られ、現在は日本最大級のASPとして国内のアフィリエイトサービスの中核を担っていらっしゃいます。まずはそんな御社の特色を教えてください。他社にない御社ならではの強みとはいったい何でしょう?
角田 いろいろな局面で、度々そう質問されるのですが、いつも答えに窮してしまいます(笑)。なぜならアフィリエイト広告はシステムだけを比べた場合、そこに他社との差分がないからです。
――なるほど。
角田 ただし、システム以外ということであれば……そうですね、弊社には2つの大きな強みがあると考えています。ひとつは、Yahoo!グループの傘下に入ったことで、Yahoo!ショッピングを筆頭にYahoo!関連の商品を数多く、しかも独占的に取り扱わせていただいていることです。それに伴い、大手から中小までたくさんのメディア様にお集まりいただいてもいます。また、広告事業とは別になりますが、弊社が展開しているCRM事業でも、Yahoo!ショッピングに出店されているショップ様向けにCRMツール「STORE’s R∞(ストアーズ・アールエイト)」を独占導入させていただいています。こちらも好調で、すでにかなり実績を上げています。
――Yahoo!グループの一員になったことは、やはり大きかったのですね。
角田 もうひとつの強みは、他のASPに比べて、いわゆるナショナルクライアントと呼ばれるお客様との取引が多いことです。ナショナルクライアント様の広告をご自身のサイトに貼りたいと希望するメディア様が、ポイントサイト様を含めて数多く集まってきてくださっています。これも弊社にとっても大きいことです。このようにYahoo!独占やナショナルクライアント様の案件を取り扱っているがゆえに、強いメディア様には確実に参入していただいていますし、反対に強いメディア様を広告主様にご提案することもできています。こうした好循環を作れていることが、総じて弊社の強みではないかと考えています。
――ちなみに御社のサイトを拝見すると、「アフィリエイト広告の出稿実績は6000社以上」と記されていますが、比率としては特にどのような業種からの出稿が多いのでしょうか?
角田 カテゴリーの割合としては、上位から旅行、物販、コスメ、金融の順になります。先ほど申し上げたようにYahoo!ショッピングとの強い繋がりがあるので、物販は非常に好調ですね。
――物販……それと旅行のカテゴリーも強いですよね。
角田 おかげさまで、国内大手旅行代理店様を始め、「じゃらん」や「エクスペディア」といった旅行関連の主要メディア様についても、ほぼ網羅させていただいています。そこに対するメディア様のご協力もあり、このカテゴリーはかなり伸長していますね。
――なるほど。では、アフィリエイト広告全体のトレンドについては、どのように見ていますか? 今一番勢いのあるカテゴリーとは何でしょう?
角田 直近のトレンドでいえば、EC市場の売上高の伸びと国内のEC化率を踏まえて、こちらもやはり物販のカテゴリーが上昇傾向にあると見ています。それ以外ですと通販やコスメのカテゴリーが伸びていますね。
――物販と通販を区別されていますが、両者はどう違うのでしょう?
角田 物販はYahoo!ショッピングのように複数の商品を取り扱うイメージです。一方、通販は“単品通販”とも呼ばれたりしますが、複数商品ではなく、商品をひとつに絞って紹介するようなイメージです。健康食品がその代表格ですね。
――なるほど。では、関連してもうひとつ質問です。芽吹いたばかりというか、まだトレンドとは言いがたいけれど、今後必ず勢いが出てくるだろうと、そのように見ているカテゴリーはありますか?
角田 これは……私たちの方が教えていただきたいぐらいですね(笑)。ただ、ひとつ言えるのは、コスメや健康食品、単品通販もそうですが、これらのカテゴリーで動きがあることは確かです。薬機法が絡んでくるカテゴリーということもあって、広告主様もメディア様も導入に際しては、正しい広告表記かどうか、厳しくチェックさせていただいています。じつは、これまではチェックをクリアできない広告主様、メディア様が結構いらっしゃいました。
――薬機法など一般の方はあまりご存知ないかもしれませんね。
角田 もっとも、これまではチェックをクリアできなければそれまでだったのですが、2017年5月に「イー・ガーディアン」さんと連携することが決まり、今ではチェックの厳格さはそのままに、広告主様にもメディア様にも、以前より導入しやすい環境になっています。
――イー・ガーディアンとはどのような事業者なのですか?
角田 メディアを中心に広告審査代行や入出稿管理業務のアウトソーシングを手掛けている企業です。弊社は会社設立当初より広告表記については、一貫して厳しく取り組んできました。実際、社内の人間が一件一件、目視で審査してきたのです。しかし、社内の限られた人員で対処するにはあまりに規模が大きくなってしまいました。そこで白羽の矢を立てたのが、イー・ガーディアンさんです。イー・ガーディアンさんは広告表記の案件をアウトソースで受け取り、それをご自身のネットワークを使って審査したり、指導を行ったりということをしてくれています。
――審査だけでなく、指導もされるんですね。
角田 そうです。これまでは審査が中心だったため、チェックをクリアできなければそれまででしたが、指導を受けていただくことで表記問題が改善されれば、導入できるようになったということです。
――それはサイト運営の初心者など、薬機法に明るくない方々にとって、とてもありがたい取り組みになりますね。
角田 先ほども申し上げたましたが、私たちの出稿実績において健康食品やコスメのカテゴリーは今も大きな割合を占めています。今後、指導・改善という取り組みがどんどん進めば、このカテゴリーは今以上に伸長していくだろうとみています。
――期待値の大きいカテゴリーですね。ちなみに、アフィリエイト広告の市場規模は年々拡大していると言われていますが、角田さんご自身はそのことを実感されていますか?
角田 実感しています。この先、EC化率が進んでいくのも確実でしょうから。
――EC化率というのは、すべての商取引に対するEC市場規模の割合のことですね。
角田 日本には、実店舗はあるけれど、オンラインショップは展開していないという販売業者が少なくありません。BtoCにおけるEC化率ですが、アメリカは7%、中国は15%、日本はジャンルによりますが、まだ5~6%だと言われています。
――そんなものなのですね。逆に言えば、日本にはまだまだ伸びしろがあると?
角田 大いにありますね。スマートフォンの普及拡大もあり、インターネットに対する消費者の接触頻度が劇的に向上しています。その影響をダイレクトに受け、EC市場の売上げは今後2桁成長が見込まれていますし、2021年には市場規模が25兆円に達するだろうと予測されています。
――スマートフォンの普及は大きいですね。
角田 スマートフォンが登場する直前、世間ではPC離れのようなことが起きていたように記憶しています。それがスマートフォンの登場によって激変しました。ネットへの接続頻度が増えたのは若年層に限りません。PCは使いこなせないけど、スマートフォンならネットに接続できるという年配者が非常に多いのも事実です。私たち世代も変わりました。混雑した通勤電車の中ではPCを開くわけにもいかず、ネット接続など最初から諦めていましたが、スマートフォンが状況を一変させました。ネット接続に関しては、年齢層という縦軸と時間という横軸が共に伸びています。
バリューコマースの受付フロアには、たくさんの観葉植物が並び、来客を和ませている。
――では、ポイントサイトを始め、アフィリエイト広告を取り扱うメディアにもいくつか種類がありますけれど、御社は主にどのようなメディアと取引されているのですか?
角田 ポイントサイト、ブログ、それに比較サイトの各メディア様。最近は記事サイト様も増えてきています。比較サイトが商品をランキング形式で一覧表示するのに対し、記事サイトは、たとえば名刺入れなら名刺入れという個別の商品に特化した記事を掲載されているメディア様になります。レビューサイトというか、形態としてはブログにも似ています。
――御社の中で大きな比率を占めているのは、どのメディアになるのでしょう?
角田 広告はメディアとのマッチングが重要になりますので一概に言うことはできません。ただ、旅行や物販ではポイントサイト様にご尽力いただくことが多いですね。コスメなら単品通販様。金融なら記事サイトやブロガー、比較サイトといったメディア様が若干多くなる傾向はありますね。
――御社が取り扱うアフィリエイト広告の中でポイントサイトが占める割合は大きいのでしょうか?
角田 支払額でいうと一番大きいですね。ポイントサイト様にご尽力いただいてきた物販の伸びを、さらに加速させることができるような施策はないものかと、まさに現在、新しいことにチャレンジし始めているところです。
――それはポイントサイトの運営者にとって、とてもありがたいことですね。
角田 弊社が目指す姿は「日本一のマーケティングパフォーマンスカンパニーになる」ことなので、それに基づき、集客から顧客のリテンションまで、できることはすべてやっていきましょうというスタンスです。メディア様に対しては成功報酬の最大化を図り、広告主様に対してはマーケティング成果の最大化を図ることが重要だと考えています。
――具体的には?
角田 「貼るだけ」で収益最大化を支援する3つの新サービスを2017年5月にスタートさせました。「おまかせ広告」「ダイナミックLP」「オートMyLink」の3つがそれです。特徴としてはメディア様がご自身のサイトにこれらのサービスを貼るだけで、収益最大化やマーケティング最大化を図れるというものです。
――ひとつずつ概要をご説明いただけますか?
角田 「おまかせ広告」は、メディア様にバリューコマース専用の枠をサイト内に設けていただければ、そこに該当のタグを貼るだけで広告掲載ができるようになるサービスです。広告の運営は弊社が行いますので、広告主探しも提携申請も不要です。収益が上がりやすい広告を優先的に配信しますし、広告のカテゴリーを選ぶこともできます。たとえば、名刺入れに特化したブログを運営しているのであれば、革製品や革小物の広告を配信するようにカテゴリーを選ぶことができるわけです。
――ミスマッチが起きにくくなるということですね。
角田 そうですね。2つ目は「ダイナミックLP」です。「ダイナミックLP」には、テーマに沿って複数の広告が掲載されるのですが、収益最大化に最も重要な掲載の並び順を弊社のデータに基づき、オートマチックかつダイナミックにランキングするサービスです。
――LP(ランディングページ)とは、サイトの中でユーザーに購入や問い合わせ、資料請求などを促す独立したページのことですね。比較サイトのような体裁が多いですよね。
角田 広告主を探したり提携申請したり、情報を集めて記事化したりとLPも運用作業にとても時間がかかります。それに対して「ダイナミックLP」は、弊社がご用意したランディングページを選んで、リンクを貼るだけ。運用作業はすべて弊社が行います。ただし、こちらのサービスはまだベータ版なので、掲載広告はクレジットカードだけとなります。今後は徐々にカテゴリーを増やしていく予定です。
――可能性を感じますね。今後に期待します。
角田 3つ目は「オートMyLink」です。これはまず「オート」と「MyLink」を分けてご説明します。「MyLink」とは、弊社アフィリエイトの商品リンク機能を指していて、広告主様のサイトから商品画像やリンク先URLを自由に選べるタイプの広告です。
――広告主によっては、トップページ以外のリンクを認めないケースもありますね。
角田 広告主様の承諾が前提ですが、基本的に「MyLink」は広告主様の商品詳細ページにユーザーをダイレクトに飛ばすことができます。その方がトップページに飛ばすより、コンバージョンが良いのは容易に想像できるでしょう。この商品リンク機能の「MyLink」がオートになったのが「オートMyLink」です。何がオートになったのか? 専用のJSタグをメディア様のサイトに貼るだけで、商品の直リンク(URL)がアフィリエイトリンクに自動変換されるようになったのです。
――至れり尽くせりですね(笑)
角田 しかも当該商品の取り扱いが終わると、言い換えれば広告の提携が解除されると、JSタグは働かなくなるので、ユーザー様も他のページに飛ばされることがありません。リンク切れを起こさないというのは、ユーザー様にとっても優しいサービスでしょう。ちなみに「オートMyLink」は弊社が競合に先駆けて取り組んでいる仕組みです。
――どのサービスも広告の運用作業をかなり削減してくれますね。初心者もかなり参入しやすくなるのではないでしょうか。
角田 メディア様には広告運用に費やす手間暇を大幅に省いていただいて、その分、コンテンツの作成に専念していただきたいと願っています。
――では、アフィリエイト広告の可能性というか、アフィリエイトの仕組みを使って今後新たなサービスが生まれるようなことはあるのでしょうか?
角田 アフィリエイトの仕組みといっても、特段難しいことをしているわけではありません。アフィリエイト広告は、アドネットワークやリスティング広告などと並ぶ、インターネット広告のひとつにすぎません。ただし、他のネット広告と大きな違いがあります。それは報酬の発生する時点です。私たちは広告主様が定めた成果をクリアして始めて報酬が発生します。
――マス広告でいえば、テレビCMなら放送した時点、雑誌広告なら掲載された時点で報酬が発生しますが、アフィリエイト広告はそこで終わりませんね。
角田 となれば当然、広告主様のマーケティング活動に寄与するようなサービスを展開しなければならない。広告主様がまだ気づいていない課題を見つけ出し、解決に導くようなソリューションをご提案することもしばしばです。つまり広告主様やメディア様が成果を上げる時点までコミットメントして仕事しているところが、他のネット広告と違う点なのです。
――アフィリエイト広告はきめ細かく丁寧にやらざるを得ないわけですね。
角田 アメリカでは2017年にネット広告費がテレビ広告費を超えると予測されています。おそらく日本も近い将来そうなるでしょう。なぜ広告費がネット広告に流れるのかといえば、良くも悪くも広告効果がストレートに数字に表れてしまうからです。そのなかで、さらに効率の良いもの、成果の高いものと追いかけていけば、自然と成果報酬型広告に行き着くでしょう。私はそう見ています。